大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和24年(を)1268号 判決

被告人

早田靖司

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人竹内信一の控訴趣意は末尾添付の控訴趣意書のとおりである。

第一点について。

原判決の認定事実は裁告人が居村学文路村納税民主化同盟の委員長として、同盟幹部等数名と共に粉河納税署に赴き署長松本常次郞に対し團体交渉権を認めよ、などの要求項目を記載した同盟要求書を示して、その承認を要求し、もし要求に應じないときは同税務署の不正を摘発する旨仄かして團体の威力を示し同署長を脅迫したというのであつて所論のごとく被告人らが暴行をしたものとは認定していない。そして特定の事実を指摘して、その事実の存否乃至意見弁解を求めるのなれば格別、税務署長に対して慢然税務署に不正の事実があるごとき口吻を表示するにおいては相手方たる同署長の名誉権に対する害惡の通知であつて、これが右同盟の組織者たる多衆の威力による場合には、さらに顯著であつて、脅迫行爲と言わねばならない。所謂証人松本常次郞の証言その他によつても原判決が実驗則に反して重大な事実誤認をしたとは認められない。論旨は理由がない。

第二点について。

税務署に対する納税者の團体交渉権などそれ自体法律上認められたものではなく、もし課税決定に不当の点があればそれに対しては異議の申立など税法上認められた方法又は行政訴訟の方法によつてその不当の排除を求めるべきであるのにこれらの法律上許された方法によらないで、直接多衆の威力をかりてその要求を貫徹せんと税務署長に対して税務署の不正を摘発する旨仄かしたがごとき行爲はとうてい許さるべきものでなく、税務署の取り扱いに不当の点があるの故をもつて被告人らのこのやうな行爲を実質的違法性を阻却するものとし刑法第三十五條を適用すべき余地はない。

以上のごとく各論旨はいずれもその理由がないから刑事訴訟法第三百九十六條に則り主文のとおり判決をする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例